なんとなく思いついたので芥川龍之介作の「蜘蛛の糸」についてです。
なお,書き出しを考えたのですが,ちょっと言葉に不適切な部分があると思いやめました。
では,早速あらすじから
『大泥棒のカンダタは生前に犯した数々の悪事により地獄に落とされていました。それを天界から眺めていたお釈迦様が、カンダタも生前一度だけよいことをしたからチャンスをやろうと、蜘蛛の糸を垂らしました。
カンダタは糸を掴んで登っていきますが途中で下を振り返ると他の亡者達が登ってこようとしていました。糸が切れると思ったカンダタは俺の糸に登るな、降りろと叫ぶ。
すると糸はぷつりと切れてしまいました。
それを見届けたお釈迦様は悲しげな顔をして立ち去りました。
そして,天界の蓮は何事もなく美しく咲き続けましたとさ。』
というのがあらすじです。
地獄に落ちた者達は,生前の業とはいえ辛く苦しい沙汰に耐え続けます。
それは,自業自得という言葉がふさわしいかもしれません。あの世の場合なら仕方がないと思います。
ですが,現世では苦しんでいる人すべて自業自得といえるのでしょうか。まぁいいです。続けます。
そこに救いの蜘蛛の糸が垂らされてきました。それは普通しがみ付くでしょう。
しかし,しがみ付いたのは細い蜘蛛の糸です。どれくらいの重みに耐えられるか分かりません。(実際には,同じ太さの鋼鉄の5倍の強度といわれています。まぁいいです。続けます。)
そして,それを見ていた同じ立場の人たちが一緒に蜘蛛の糸につかまり上ってきました。
ここで,俺の糸だ!と叫んで追い払うのはそう悪いことでしょうか。
実際にお釈迦様が垂らした糸は,当初はカンダタのために垂らしたものです。ひとりが上るだけでも切れそうな糸に沢山の人が上ってきたらすくなくとも「お前ら!とりあえず落ち着け!」くらいのことは叫びそうな気がします。(地獄には行きませんが)実際に同じ境遇になったら言葉を選ぶほどで落ち着いてられないかもしれません。
現代に生きている我々は,自分に与えられた権利は自分で守ることを教育されています。それは,守らなければ奪いに来る者がいるからで至極当然のことです。
逆に分け合うことも教育されます。これは,道徳的観点が大きいと思いますが,実際に国家単位で利益の分配ができていない国の経済的状況を見ればある程度必要である理由は明らかだと思います。
じゃあ,何で糸が切れてしまったのかというと別にお釈迦様が切ったわけではなさそうです。
明らかに重みで切れたのでしょう。
じゃあ,どうすれば地獄から抜け出すことができたのでしょうか。
みんなで話し合って順番を決めて上っていくのが合理的だとおもいます。
・・・が,私はこの方法も難しいと思います。ひとりが上っている間,何人もがずっと引き続き苦しんでいなければならないのです。決めた順番どおりに全員が従うとは私には思えません。そういえば,東日本大震災のときに断水の起きてない地域においてもスーパーから水が消えたことがありましたね。その分の水が被災地に送られたという美談を私は聞いていません。
結局,蜘蛛の糸一本じゃ誰も助からなかったのではないでしょうか。
お釈迦様のお戯れにも似たような救いの糸を地獄から逃げ出したい一身で先を争い結果,誰も救われなかったということになります。
そして,自らのかけた情けを“いかにも人間らしい”振る舞いによって不意してしまったカンダタ達の悲劇をお釈迦様は“浅ましく”思われたようです。そして,一部始終を見届けた後にぶらぶらと歩きながら,“もっと多くのカンダタのような人々をみずからが救いたい”とのご決意をされたそうです。
なお,極楽はお昼ごろだった模様でお釈迦様はお昼ご飯を食べに行ったのではないかと推測しています。
そしてそれらの出来事をさも瑣末なことと言わんばかりに天界の白い蓮の花は咲き乱れあたりに良いかほりを漂わせていたようです・・・
結構,私見が入ってしまっていますが,原作は天国と地獄のイメージの描写が実にしっくり来る作品だと思います。この世でも同じような・・・おっと!それ以上は言いません。
なんかこの話を読むたびに,日々,人間ならではの欲とかそれを戒めるための倫理だとか,そんなことに振り回されながら必死に生きている自分の姿が,まるで,棒で巣を突かれて逃げ回る蟻のように思えてなんともむなしい気持ちになります。
それでも,その欲とか倫理とかで迷っている自分が小さく見えると不思議と元気が出てきてしまうのは,まるで,バブルあたりにやっていたドラマで,高層ビルから人々の歩く姿を見下ろして「俺達になんてちっぽな存在なんだ」のようなことをつぶやくシーンを見たときのあの気持ちの様です。
なお,「蜘蛛の糸」に対する高橋の感想はかなり捻くれているのではないかと思います。
読み方によって様々な感想を持てる名作だと思います。
短編なので20分もあれば読めますから読んだことのない方は是非読んでみてください。
でも,この世に天国も地獄も必要ありませんよね。