おもしろきこともなき世をおもしろく
とは,幕末の志士高杉晋作の辞世の句です。
高杉晋作の晩年は,肺結核のため療養生活を余儀なくされ、大政奉還を目にすることなく29歳にしてこの世を去りました。その亡くなる直前にこの辞世の句を詠んだといわれています。奇兵隊を創設したほか八面六臂の活躍で時代を大政奉還まで導いた立役者らしい力強い上の句だと思います。
なお,下の句では「すみなすものは心なりけり」とされていますが,この下の句は死の床にあった高杉を看病していた野村望東尼が付けたと言われています。繋げてみると“世の中を面白く思うのも思わないのもその人の心次第だ”というように読めます。
まぁこれだけ見れば(なるほど・・・いいこというじゃん)となるのですが,この下の句は一部の人達のからの評判がすこぶるよろしくありません。(私もその一部です。)
なお,高杉晋作がどう人物であったかについては,同じく長州藩士であった初代内閣総理大臣の伊藤博文(かつて1000円札にもなった人)が,高杉晋作を評してこんな言葉を残しています。
「動けば雷電の如く発すれば風雨の如し、衆目駭然、敢て正視する者なし。これ我が東行高杉君に非ずや」
なお,「東行」とは高杉が自らに付した号で,西行法師にちなんだものだとされています。
そんな,幕末の風雲児から説教じみた辛気臭い辞世の句を聞きたくないというのが,高杉ファンの気持ちではないかと思います。そもそも人の心次第で良いのであれば,明治維新という革命など起さなくても良かったという話にもなりますし。
そういえば,山口県(長州)のどこかで下の句を一般募集して詠み合うコンテストが行われたことをニュースで見たことがありました。それを知った当時,「そんなナイスな企画があるのだったら教えてくれればよかったのに!」と地団駄踏んだ覚えがあります。
まぁそれは置いといて,高杉晋作という人は,この手の唄などの芸術関係に長けていたようで「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」という有名な都都逸も残しています。
そんな,高杉晋作の生涯最後の句(と司馬遼太郎先生がおっしゃっていました。)は,“おもしろきこともなき世をおもしろく”で留めておいて『生きることに面白さを求めるのであったら自分で下の句を考えろ』という時代を超えた普遍的なメッセージとして捉えた方が,より幕末の動乱において奔放に生きた高杉晋作の魅力が増すであろう・・・と,いちファンの私は思うわけです。
ちなみに私が参考にしている図書は,司馬遼太郎著「世に棲む日日」です。
ご興味を持たれたら是非是非ご一読くださいませ。